【会社名】有限会社 観月
【住所】〒851-0506 長崎県長崎市脇岬町3628-5
【主な事業内容】ごま豆腐、おいもよせ製造・販売
【取材先】吉田太郎(代表取締役)
※取材:2026年
一番人気の「田舎風ごま豆腐」
カタカタカタカタカタカタ…。
香ばしいごまの香りに満ちた作業場に、蒸気釜の小さな音が響く。釜の中では、「ごま豆腐のもと」がゆっくりと練り上げられている。

約30kgのごまを6~8時間かけてペースト状にし、でんぷん、砂糖、塩に、家に伝わる隠し味――牛乳と醬油――を加えて作るごま豆腐のもと。ごまペーストはすり立てを使うのが信条だ。
蒸気釜でおよそ40分練り上げると、仕上げにカラメルで色付けする。
「長崎でごま豆腐といえば茶色なんです。風味を出すために炒りごまを焙煎するのが本来の作り方なんですけど、その茶色は焦げなので、苦みが出てくるんです。その苦みをいやがる方もいるし、私自身、苦みがないほうが美味しいと思うので、炒りごまをペーストにして、カラメルで色を付けています」。



同じ配合で作っても、日によって味にわずかな差が出る。だから毎日、自分の舌で確かめ、調え、仕上げる。味が決まれば、まだ熱々のをバットに移して、冷やす。冷えて固まれば、観月の一番人気商品「田舎風ごま豆腐」の出来上がりだ。



まだ温かさの残る出来立ての「田舎風ごま豆腐」を試食させてもらう。香り高いごまの風味がまったりと口中に広がり、ほんのり甘くてやさしい味わいがスイーツのようだ。ほどよく歯ごたえのあるやわらかもちもち食感は、わらび餅に似ていると言えば伝わるだろうか。つるんと喉を通りやすく、ごまの栄養とカロリーが摂れるので、喉が痛いときや食欲のないときにも良さそうだ。
実際、「お年寄りが夏バテしてきたら、ごま豆腐やったら食べてもらえるんだよね」という声も届くという。また、長崎県内のいくつかの病院の食事にも採用されているそうで、「入院している方に少しでも喜んでもらえるのはうれしいです」と吉田社長は笑う。
「観月」をブランド化
「観月」という風流な名は、祖父の代まで営んでいた割烹旅館「観月荘」にちなむ。野母崎(長崎半島)の入り江と山が作るおだやかな景色の中に建つ、当時の建物をそのまま引き継いだ店舗兼作業場は、設えや内部のそこここに在りし日の面影が残る。



観月が割烹旅館からごま豆腐製造へと舵を切ったのは32年前。前々年のハウステンボス開業で客足が鈍ったのがきっかけだ。その頃、料理店で料理長をしていた吉田社長の父は、同僚と店に出すごま豆腐を練りながらスーパーでごま豆腐が売られているという話を聞いた。
「スーパーに見に行ったら1個200円くらいで売られていたらしくて、それなら1日300個売れば生活できるぞ、みたいな安易な発想で(笑)。とりあえず試験的に、うちの母が家で作っていたごま豆腐を作って売り出してみたけど、出すお店はないし、町内を回るしかなくて2日で30個売れればいいほう(笑)。当初は父が板前で収入を確保しつつ細々と始めました」。

1日10個売れる店を30軒見つければいい。両親は力を合わせてポジティブに取り組んだ。味は母のオリジナルレシピを軸に追求。何度も試作を繰り返しながら、観月のごま豆腐の特長である深みとまろやかさを完成させた。
吉田社長も中学生になると、休日や夏休みなどに手伝うようになる。兄妹がいるが、2人とも無関心。
「だから、大きくなってもせざるをえんとやろうな、と薄々思ってましたね」。
高校生になると、ごま豆腐に、というか野母崎に転機が訪れた。朝の連続テレビ小説で精進料理が大きく取り上げられ、ごま豆腐の認知度が一気に高まったのだ。当時、野母崎には3軒のごま豆腐店があり、その美味しさが評判となった。「野母崎」を謳い、1日700個のごま豆腐を売り上げる店も出はじめた。
「野母崎」がごま豆腐のブランドになった。
高校を卒業し、社会勉強のため京都と東京で仕事をしたのち、吉田社長は20歳で野母崎に戻り家業についた。
「私が戻った頃までは、野母(野母崎)のごま豆腐と言わんば売りえんやった(売り切れていた)です。けど、観月と言っても取ってもらえんやったけんが、観月を売っていかんばやんて、『野母の観月よ』って言って2、3年売りつづけよった。そしたら観月だけ言ってもみんなに『あー、野母の観月さんね』と言われるようになって、やっと名前ば売ることができたけんが、観月をブランド化することができたなって」。
地盤を安定させ、攻めの商品展開にいきたい
観月には「田舎風ごま豆腐」のほか、「金ごまごま豆腐」「抹茶ごま豆腐」がある。
「抹茶ごま豆腐」は名前のとおり、抹茶のほろ苦さとほのかな甘みがあと引く美味しさ。以前は期間限定商品だったが、人気のため通年販売するようになった。
「金ごまごま豆腐」はほとんど甘さを感じない。当初は白ごまのみで作っていたが、十数年前から金ごまを入れるようになり、風味が増した。甘いごま豆腐が主流の長崎でも、エリアによっては「金ごまごま豆腐」のほうが売れるそうだ。ちなみに、吉田社長のお子さんたちの離乳食はこの「金ごまごま豆腐」。

そんな観月のごま豆腐をこれからは県外にも拡げたいと、先般真空パック機を導入し、これまで7日間だった賞味期限が14日間に延びた。
「でもまずは、地盤固めをちゃんとしとかんと。早くそこを安定させて、攻めの商品展開にいきたいです」。
いまでは野母崎でたった一軒となってしまったごま豆腐店の誇りと意地を背に、吉田社長は柔和な笑顔に決意の色を浮かべた。

