【会社名】つしま大石農園
【住所】〒817-1603 長崎県対馬市上県町佐護東里1384
【主な事業内容】お茶とゆずの製造・加工
【HP】こちら
【取材先】大石裕二郎
※初回取材:2022年
追加取材:2024年
山がちの土地と対馬の獣にも適したお茶とゆず
――どんな事業をやっていますか。
お茶とゆずの栽培を12年前から父が始めました。父は県の職員で、農業技術の指導員をやっていて、退職してから対馬に新しい産業を興したいという想いがありました。対馬は、土地の面積の約90%が山林で平地が少なく、シカやイノシシの獣害もあるので、それらに適した作物は何かと考え、お茶とゆずにしました。どちらもシカやイノシシは食べないし、シカについてはお茶の周りの下草を食べてくれるので、まさに「自然の芝刈り機」にもなります。
今年4月からは農家民泊やレンタルサイクルも開始し、色んな人にド田舎を楽しんでもらおうと思います。
はじめは祖父と父が、山を切り開いて茶樹を植えるところからスタートしました。私自身は大学から静岡に出ていましたが、父から手伝ってほしいと言われたこともあり、4年前に戻り、今は現場を父、営業や製造は私で担い、家内も含めて家族で一緒にやっています。


「対馬紅茶」は、国産の紅茶でも5本の指に入る
――どんな商品がありますか。
例えば、紅茶や緑茶があります。「べにふうき」という品種は、緑茶にすると苦いですが、紅茶へ加工すると美味しい紅茶になり、紅茶の専門家から国産の紅茶の中でも5本の指に入ると評価をいただきました。茶葉の形がうまく出来なかったものも味がしっかり出るので、紅茶スパークリングやシロップにするなどしています。
ゆずは、一味として、辛さの中にもゆずが香る「辛みの赤」と、若々しいゆずの香りが広がる「香りの青」。対馬のブランド塩の「浜御塩」を使った「ゆず塩」や「ゆず胡椒」。さらに「ゆずの皮」も出しています。どれも和食に良く合いますよ。

対馬の約90%を占める山林、周囲の海から生みだせる美味しさ
――生産にあたってのこだわりはありますか。
こだわりというか、父から教えられた事を守っているだけですね。対馬は90%が山林ですので、土作りからやっています。もちろん、無農薬・無化学肥料の栽培です。美味しくなるように、毎年試行錯誤しながらです。
大変なことでいうと、対馬は丘陵地なので、移動がとにかく大変。さらに、冬場はすごく寒くなるので、鼻水を垂らしながら作業するときもあります。北海道の人からしても対馬の寒さは質が違うみたいです。

―紅茶が美味しくなると聞きましたが、その理由はどこにあるのでしょうか。
対馬は全体的に岩盤地層が多く、決して豊かではないですが、海からのミネラルがたっぷりと含まれている土地だからこそ、美味しくなるのではないかと思います。

海外から人が来て一緒にやってくれることを伝えたい
―ブログで、海外からのお手伝いさんを積極的に受け入れているとみました。
「WWOFF(ウーフ)」という人と人の交流を促す海外の取り組みを利用しています。ホスト(受け入れ農家)は食事と宿泊場所を提供し、「ウーファー(手伝う側)」は労働力・知識・経験を交換する仕組みです。日本の文化に触れてみたいという海外の人が多く来てくれています。世界中の人に対馬の事を知って貰えるなど効果は「一石五鳥」くらいありますね。今もちょうどフランスのパン職人さんがゆず山の整備を手伝ってくれていて、とても頼もしいです。
―社団に期待することを教えてください。
地元の方の「自分たちはもっとやれるんだ!」という意識を対馬で生み出していきたいです。「何とかなるよ」という意識が強いので、対馬にいることを誇りに思い、対馬をみんなで盛り上げようという気持ちをもって一緒にやっていきたいです。

~2年が経ち、大石裕二郎さんにあらためてお話を伺いました~
今年の4月から代表になりました。去年、父とケンカしながらも試験的にいままでと違う手法を試してみたらうまくいくことがわかったので、お茶栽培の手法も見直して、今年から量産できるようにもなりました。父もいまのところは納得してくれているみたいです(笑)。
商売的には、コロナ禍で取引が途絶えていた台湾の商社から「和紅茶を扱いたい」とご連絡をいただいたり、お茶専門店のルピシアさんから日本各地の和紅茶を紹介する企画の候補としてのお話をいただいたりと、ありがたいお話が進んでいます。ルピシアさんには、まだ和紅茶がいまほど注目されていなかったときにも一度選んでいただきましたが、今回はあらためて様々な和紅茶の中から選ばれるということで、採用されればうれしいですね。(※取材後「対馬紅茶 べにふうき 2024」が採用されました)
「NIKKEIプラス1」の「何でもランキング」(2023年12月23日付)で2位にランクインしたことも大きかったです。「新聞に出ていましたね」と声をかけられたり、箔が付いたことでハイクラスなお茶会のデザートに島紅茶を添えていただいたり、紅茶教室で使っていただいたりと広がりました。先ほども全国紙の取材を受けたところです。あとはその評価に恥じないよう真面目に取り組むだけです。手を抜いたり肥料を変えたりすれば、お茶がわかる人にはすぐに見破られてしまうのでいまが頑張りどきです。
土地の9割を山林が占める対馬には、お茶や柚子の栽培が一番適していると思います。しいたけ栽培をしていた祖父の圃場を開墾して、父がお茶と柚子の栽培を始めたのもそう考えたからですし、私も実際やってみて実感するのは、お茶や柚子の木の強さもさることながら、土地にいる微生物のおかげで化学肥料が不要で、畑に棲んでいるクモやカマキリが害虫を食べてくれたり、鹿が苦い茶樹には手を出さず下草を食べてくれたりするので、農薬も必要ありません。本当に手間いらず、それでいて一度育ってしまえば長く栽培できる息の長い作物は、平地の少ないこの島にはうってつけです。
私から離創協に望むのは、様々なメーカーさんとのコラボレーションのチャンスです。いまも山崎製パン(株)さんと一緒にお仕事をさせていただいていますが、先日、五島に行ったときにいろんなコラボ商品を拝見して、そんな願望が生まれました。あと、いま狙いたいのは海外です。
とにかく、対馬に役立つ農業をしたくて、野菜の水耕栽培や養鶏などいろいろアイデアが湧いてくるのですが、いまはまず、お茶と柚子でしっかり足元を固めないと。そういう意味では、お茶づくりは私一人ですべきかとも思いますが、工程ごとに細分化して、一つの工程を任せることのできる人を育てる仕組みができれば、対馬に雇用が生まれて持続可能な循環ができるとも考えています。