【会社名】株式会社 人作(屋号:薬味屋人作)
【住所】〒855-0022 長崎県島原市長貫町丙1907-1
【主な事業内容】農産物の生産・加工、農産物の委託販売
【取材先】松本直也(経営企画室 室長)

※取材:2025年


繊維質が少なく、やわらかな辛みで香り高い島原百年生姜®

島原半島の中央に聳える雲仙普賢岳。日本有数の活火山であるこの山は、長い歴史の中で半島に住む人びとに大きな災厄を与えるとともに、肥沃な土壌と豊かな水をもたらした。住民はその大地を耕し、山麓には広大な農地が広がった。薬味屋人作の「島原百年生姜®」はこの地で育てられる。

「このあたりは雲仙普賢岳の火山灰土の影響で、ミネラル豊富なふかふかとした水はけのいい土ができています。ウチの生姜はストレスを受けずに大きく成長できるので、繊維質が少なく、ほわっとやわらかな辛みで香り高いのが特長です」。

そう話す松本 直也さんは江戸時代から続く生姜専門農家の6代目。かつては大手損害保険会社に勤めていたが、2024年に父・松本 政彦さんが代表を務める(株)人作に就農、2025年、「薬味屋人作」の屋号でやっていくことを決めた。それは、薬味に特化し、地域と農業を盛り上げていくのだという決意の表れでもあった。

松本 直也さん

直也さんがここまで覚悟を決めたのには理由がある。豊饒な大地が広がる島原は、生姜に限らずどんな作物も良く育つ。それは良いことではあるが、反面「コレ」という特産品が生まれにくいということでもあった。

島原を、産地として力強く打ち出すための特産品が必要だ。

そう考えた直也さんは、代々作りつづけてきた生姜に着目した。

「とにかく地元の名産を作りたいですし、これだけいい土壌で作られた作物をしっかりと世に発信していきたい。そうすれば地域にきちんとした雇用が生まれて、そこから次の世代、そのまた次の世代へとつなげることができる」。

直也さんは、自分たちの世代がいま、しっかりと地域の魅力を最大限発信していくことが大切だと話す。

そのままでも肥沃な大地に、エサからこだわって育てられた鶏の糞をブレンドしたオリジナルの堆肥をまぜ、前年に収穫した生姜を割って植え付ける。生姜は高温多湿を好むためハウスは二重のカーテンで覆い湿度と温度を上げる。2週間前に植え付けたこの畑は、よく見れば土が盛り上がり、もうすぐ芽が出てきそうだ。
手間ひまかけて育てられた島原百年生姜®は、ハウスものは7月から9月にかけて、露地ものは11月に収穫し、貯蔵庫で寝かせ熟成させる。

加工品で生姜の魅力を伝えた母。次は自分の番。

薬味屋人作には生姜だけでなく生姜を主役にした加工品がある。その立役者が直也さんの母・綾子さんだ。 

ひと昔前まで、農業者が流通過程でできることは生産だけだった。出荷したらその先はわからない、手塩にかけて生姜を育てても、生産者の名前は消されほかの生産者の生姜と一緒にされていた。取引価格も「味」は考慮されず、規格と相場で決められていた。

「こんなにおいしい生姜をなぜ自分たちで売れないのか」という綾子さんの疑問は「自分たちで売る」という決意に変わり、2011年、長崎県JA中央会主催「ご当地スイーツコンテスト」で、息子さんたちと考案した「プリンdeしょうが」が最優秀賞を受賞したのをきっかけに加工品づくりへと発展。2013年には6次産業化総合化事業計画が農林水産省に認定された。

現在、その数は14品目。生姜以外の原料も島原産、国産にこだわったその味は、多くのファンに愛されている。

「『生姜を主役にしたい』という母の強い思いからアイデア商品がたくさんできました。最初は小ロットでしたが、いまでは数も質も担保して作れるようになっています」。

生姜と農業の魅力を加工品という形で発信する母親の姿が、生姜農家を継ぐ一つの動機にもなったと話す直也さん。次は自分の息子に、その魅力と可能性を伝える番ですと語るその頬に、ひと筋の決意が走る。

150年前に先祖が耕したこの大地を、100年先も残すことができるように。100年作りつづけてきた「島原百年生姜®」が100年先の人びとにも愛されていますように。薬味屋人作は、生姜を作り、地域を作り、人を作り、そのバトンをつないでいく。

2017年にはJGAP認証を取得。
島原百年生姜®が育つハウス。目を上げれば雲仙普賢岳がすぐそこに。