【会社名】株式会社 松本ポートリー
【住所】〒859-1415 長崎県島原市有明町大三東戌4068
【主な事業内容】養鶏業
【取材先】松本将宏(代表取締役)

※取材:2025年


78種類以上の厳選素材と雲仙の湧水で育つ鶏たち

ピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨ…。

朝5時。松本社長は雛たちの元気で愛らしい声に満たされた鶏舎へ入ると、元気か? 事故は起きていないか? 様子を見ながら給餌を始める。

与えるのは発酵魚粉、化石珊瑚、海藻、牡蠣、蛎殻、ミカンの皮、よもぎ、パプリカ、マリーゴールド、大豆、米ぬかなど、厳選された78種以上の素材を独自にブレンドしたオリジナルの飼料と雲仙の天然水。松本ポートリーの鶏たちは、この贅沢なごはんを食べながら、一羽一羽愛情深く、手塩にかけて育てられる

給餌はすべて手やり。初代である祖父が養鶏を始めて以来、戦前から続くこだわりだ。

「雛の鶏舎は3種類あります。一番最初に入るのは小さい雛たちのいる鶏舎。次に中雛、大雛のいる鶏舎の順です。これは免疫の関係ですね。そこまでデリケートかどうかわからんけど、僕はそうしています」。

近年猛威を振るう鳥インフルエンザ対策に、注意の上に注意を重ねる。以前は放し飼いにしていた鶏たちをケージ飼いしたのもその一環だ。

病気への注意に加え、体重の増えない雛がいればごはんを食べやすくし、強い雛に囲まれてごはんにありつけない雛がいれば隔離し、水飲み場の水でカラダが冷えないように気を配る。到着したばかりの雛は一週間は夜通しで見守らないと、ほんの些細な事故で命を落としてしまうこともあるそうだ。

それほどまでに気を配るのも、松本ポートリーのブランドたまご「愛でたまご」「口福たまご」が持つ滋味深く濃厚な味わい、とろりとまろやかなコク、熟成の醍醐味をダイレクトに堪能するには、生や半熟がベストな食べ方だから。

加えて、固く、頑丈な殻からこぼれ落ちる丸く盛り上がった卵黄は、黄色というよりオレンジ。それを包む卵黄膜は、箸でつついても簡単には割れないほどに強く、張りがある。用心深くつまめば指で持ち上げられるほどで、目と触感でも楽しめるというわけだ。

3種の味の「愛でたまご」。映画に出た「口福たまご」

長年「物価の優等生」と言われてきたたまごの価格は、取引相場によって決められてきた。その安定した廉価は消費者には恩恵だが、生産者にはとっては利益の多寡の振れ幅が大きい、不安定なものだった。とくにここ数年続く物価高、不安定な世界状況下においては。

松本社長は、それを打開するためにたまごを自社ブランド化することにした。

「いくらかでも利益を取れる形にしていかんと、生き残っていけんねということもあってですね。お客さんに美味しいたまごを食べさせたかというのもあったしですね」。

自分たちが望む価格で買ってもらうには、なによりお客様に納得してもらわなければならない。10年ほど前に自社ブランドを立ち上げてからは試行錯誤を繰り返し、2022年、「愛でたまご」の名を掲げてブランドをリニューアルした。

そうして生まれたのが、「幸せ」「にんじん」「さつまいも」の3種の「愛でたまご」シリーズ。「幸せ」は独自製法の発酵魚粉、「にんじん」はニンジン、「さつまいも」はサツマイモを食べて育った鶏から産まれるたまご。食べた素材を商品名に冠することで、個性を追求し、特徴とした。

「材料は地元や近隣で廃棄される食材を再利用しています。島原は国が決めたニンジンの指定産地になっているんですが、どうしても商品にならないニンジンが出るのでそれを廃棄せず、うまいこと利用できんかというので使ってみました。サツマイモは焼酎の搾りかすです」。

ほかにも発酵魚粉は長崎漁港水産加工団地協同組合のもの、ミカンの皮は島原の缶詰会社から、化石珊瑚は沖縄から。これらはすべて2代目であるお父様が奔走して集めた。

また、2022年のリニューアル前からあるのが、社長自ら「最高傑作」と言う「口福たまご」だ。生まれて間もない雛の中から、体重の重い約100羽に選ばれた“口福鶏”は、特別な環境でおだやかに育てられる。

ストレスを知らずに育った親から産まれる口福たまごは、味わい、コク、醍醐味、すべてが段違い。とくに採れたてはなんとも言えない極上の美味しさで、その実力は映画「食べる女」(2018年公開)の劇中ならびにポスターにも採用されたほど。

「ごはん自体はほかの鶏とほとんど変わりませんが、量が違ったり、多少違うものも入っとります。何が入っているかは企業秘密です(笑)」。

黄身の色の化粧箱入りで販売されている「口福たまご」。10個3,000円の価格には驚くが、食べればそれだけの価値があることがわかる。

本当に美味しいたまごを日本中の人に食べてもらいたい。

「お客さんから『松本さんのところのたまご、日にち経っても美味しか』って何回も言われとって、そがんことあっとですかね、と思ったけどみんなが言うので、一度検査に出してみたんです。そうしたら熟成すると旨みが増すという結果が出ました。これがうちのたまごの特長です」。

「幸せの愛でたまご」の試験検査結果(日本食品機能分析研究所調べ)。室温25℃、14日間の保存で熟成が進み、旨み成分が平均120%アップした。
松本社長は3代目。「うれしいのはやっぱり、お客さんから『美味しかったよ』って言われること。それが一番ですよ」。

その秘密は、お父様の苦労の甲斐あって各地から届くようになった素材を元に作るオリジナルの飼料にある。だが、その苦労も、元はと言えば餌代が高騰しているための苦肉の策だった。

「餌は値上がりしたまま高止まってるんです。だからなにか考えないといけなくてですね。ここ何年かは鳥インフルエンザからくる品薄で、たまご高かけんか、儲かってるやろうと言われますけど、そがん問題じゃなくて燃料費や餌が高騰しているからこの価格にしてやっと少し利益が出るくらいなんですよ」。

集まる素材は細かく砕いて、乾燥、発酵させる。手間はかかるが、そのほうが鶏たちが良く食べてくれるのだとか。そのための工場も自前で造った。昨年10月には、たまごをパッキングする工場も建てた。

「いまウチには11万羽がいますが、ブランドたまごとして売れるのはせいぜい1万羽分。同じように育てても90%は取引相場になってしまうけんか、ブランドたまごとして売れる比率を上げていきたいと考えて、思い切って建てました」。

「大切に育てた鶏が産む、本当に美味しいたまごを日本中の人に食べてもらいたい」と話す松本社長の声に、熱が帯びる。

たまごで日本中に幸福と口福を届けたい。松本社長は日々、わが子のように愛でる命とひたむきに向き合っている。

餌の素材をあしらったデザインは、おしゃれでわかりやすい。愛でたまごシリーズは、「めでたい日に贈りたくなるたまご」をコンセプトに、そのままでプレゼントになるようなポップで愛らしいビジュアルパッケージだ。「先日、僕の後輩が孫の節句のお返しにと『紅白』を30個ほど買って行きました。水引も描かれているからこのまま渡せますもんね」。
島原市有明町の雲仙グリーンロード沿いに店をかまえる「たまらん堂」は、松本ポートリーが運営する販売店。朝採りたまご(無人直売)やブランドたまご、シュークリームやプリンなどのオリジナルスイーツの購入が可能。
たまらん堂はイートインスペースも併設。大きな窓の外にはニンジン畑と大きな空が広がる。
雲仙岳に抱かれるように、養鶏場は有明町、国見町、礫石原町の3カ所に広がる。