【会社名】川添酢造 有限会社
【住所】〒857-2326 長崎県西海市大瀬戸町雪浦下郷1308-2
【主な事業内容】発酵食品製造
【取材先】川添 晋作(主任)

徹底したこだわりから生まれる優しいお酢

いまでは製陶する窯元もなくなった貴重な「肥前の大甕」がずらりと並ぶ工場の一室。バッハの楽曲が流れるその部屋で、お酢は半年の時間をかけて、ゆっくりと静かに育つ。米からできた麹がもろみ酒となり発酵していく中で、たくさんのアミノ酸や有機酸を生成し、コクのある豊かな味わいに。

「以前はモーツァルトを流していました。パンを発酵させるとき酵母が元気になるようにとクラシックを聴かせるという話がありますが、お酢もいろんな菌たちが作用して熟成されるので、音楽の波動や振動でいいものができればいいな、と」。

こう話すのは原料調達、製造計画、来客対応といった全体のことを見ている晋作さん。酢造の5代目だ。

雪浦(ゆきのうら)川の近くで初代が醸造を始めたのは明治33(1900)年。屋号からもわかるように当初は酢造りが中心だったが、いまでは麹、甘酒、味噌といった発酵に関わる商品を展開している。

「洗米、浸漬、蒸し、お酢の仕込みなど、うちの商品は製造過程で必ず一度は水を使います。初代は水が良ければ良い品ができるという信念を持っていて、それはいまでも引き継がれています。この雪浦地区一帯の水は、近くの長浦岳にある雪浦川の源流から引かれたものなので非常に美味しいんです。」

悠然と流れる雪浦川。

良質なのは水だけではない。酢造りに欠かせないもう一つの原材料である米は、無農薬・無化学肥料の自然農法で稲作をする滋賀県の農家「アグリなかい」の玄米と、九州、おもに長崎や佐賀のものを使用。ほかにも味噌に使う麦、大豆、塩、人気の飲むお酢「酢らり」シリーズに使われる果実など、ほとんどが長崎県および近隣県のものだ。材料はできるだけ近場で揃え、無駄な添加物は入れず、自然な方法で製品造りを心がけている。

こだわりは原料だけに留まらない。

そのままでも十分に美味しい水は、備長炭の入った大きなタンクに一度貯め置いたのちに、工場全体に行き渡らせすべての工程で使用。先述の甕の部屋の壁にも、工場が建つ敷地土中にも備長炭と活性炭が埋め込まれている。

歴史ある神社・仏閣などを掘り返すとその床下に木炭が埋設されていることがある。調湿のためとも、気の浄化のためとも、磁場を調整するためとも言われるが、いずれにせよ、そのような先人の知恵を良い製品づくりに活かすことができたらと考えたのだ。

「炭の力とかはなかなか言葉にするのは難しい、効果が目に見えてすごくわかるというものではないんですが、長いこと商品を作りつづけてきて、いいものを作ることができているのは実感しているので、間違った方向には進んでいないと思ってやっています。」

原料から環境までの徹底したこだわり。だからだろうか、川添酢造のお酢はどれもまろやかな酸味と深いコクがあり、香りにも味にも酢独特のツンとした「角」がない、優しい味わいだ。

足元の土台固めを頑張りたい

朝、一晩かけてたっぷりの水に浸された米を蒸すところから作業は始まる。ほぼすべての作業は人の手によるものだ。

「効率を上げたいとは思っていますが、大事な作業は必ず手でするようにして、できる限り商品にじかにさわって、愛情込めてと言いますか、そういうふうに作るのがうちのモットーなので。大型化して機械化ということはこの先もしない方針ですね。」

こうして生まれる製品は現在、インターネットを通じて全国に届けられる。お客様と直接つながることのできる販売形式が魅力だそうだ。いっぽうで悩みもある。

「ネット販売や他県のオーガニックスーパーでの販売などもあり、私たちの商品は他府県への情報発信はわりとうまくできているのですが、かたや地元の方に届いていないと感じています。」

そのためにもこれからは、地元=足元の土台固めを頑張りたいと熱を込めて語る。コツコツと、丁寧に。伝統の製法と祖先の信念を代々受け継ぐ川添酢造の商品は、地元の味を守る、愛される品となるだろう。