【会社名】菓舗しまだ
【住所】〒855-0851 長崎県島原市萩原1丁目1012-7
【主な事業内容】菓子製造・販売
【取材先】島田諭一(代表)

※取材:2025年


フグがモチーフの看板商品。

カッタン…カッタン…カッタン…。

どこか懐かしさを感じる心地の良いゆったりとしたテンポ。規則正しく流れる型に、フグを象ったコロンと愛嬌のある最中が乗せられると、ツヤツヤの粒餡が詰められる。菓舗しまだの看板商品「がんば最中」だ。

「がんば」とは、島原の言葉でフグのこと。「がん」は棺桶、「ば」は「~ば」という地域で使われる接続詞の方言だ。毒に当たってでも、横に棺桶を(がんば)置いてでもフグの美味に酔いたい気持ちが、その由来だそうだ。

先代が店を開いた昭和41(1966)年頃、島原はフグが漁れることで有名だった。
フグのように美味しく、みなさんに愛される郷土菓子になるように――。
そんな思いが伝わってくる「がんば最中」。サクッと軽い食感の最中にずっしりと詰まった粒餡。そのコントラストと上品な甘さがくせになる逸品だ。

がんばの金型はもちろん特注品。
機械は40年選手。修理しながら使いつづけているが「昔の機械は壊れにくいです」と島田社長。
ふだんの日でも1日に300~400個は作られる「がんば最中」。郷土菓子として親しまれ、愛されている。

菓子により作り分けられる餡。

菓舗しまだの餡は、長い時間かけて作られる。島原の湧水に一晩漬け置かれた小豆は、炊いて、漬けて、置いてを繰り返し、最中、まんじゅう、大福、どら焼きなど、菓子の種類によって糖度や固さを変えながら、丁寧に、丁寧に仕上げられる。粒餡だけでも4種類は作るというから、そのこだわりは相当なものだ。

なかでも難しいのは、固さの塩梅。口当たりに大きく影響するため、島田社長は菓子に合わせて入念に調整する。たとえば季節限定の人気商品「いちご大福」の餡は、イチゴと一緒に食べてちょうど良いバランスになるよう固めに練る、という具合。

がんば最中の粒餡は、一般的な最中の餡より甘すぎず軽やか。水分が多く、パリパリの皮との相性が抜群だ。
固めに練られ、ジューシーなイチゴとのバランスが絶妙ないちご大福の餡。

「ウチの餡の材料は小豆、湧水、グラニュー糖、少しのトレハロースだけです。材料が少ないから、わずかな糖度の差で炊き上がりの固さが変わるし、口どけや舌ざわりがダイレクトに味につながる。最初のころは失敗も山ほどしましたが、親父の小言を聞き、よその職人さんに教えを請いながら、なんとか自分のものにしました。2年はかかったかな」。

もう一つの人気商品「いちご大福」。

餡もそうだが、島田社長は使用する素材にもこだわる。それが垣間見えるのが先ほど触れた「いちご大福」だ。

使用するイチゴは契約農家から直接買い入れ、搬入はすべて自分たちで行う。

「収穫したイチゴを入れる専用のコンテナがあるんですが、農家さんからはそのコンテナごともらってきます。イチゴってさわった回数が多いほど悪くなるのが早まるんです。だからさわるのは収穫の1回だけ。あとはさわらない」。

イチゴが出回る年末から翌年の5月頃までは毎日作るため、2日に1回はイチゴを受け取りに行く。現在はメインで1軒、出始めと終わりのイチゴの出荷が不安定な時期にフォローしてもらうのに2、3軒の農家と契約している。

「普段は1日150個くらいですが、年末年始は400個くらい作ります。バレンタインデーにはチョコのいちご大福と普通のいちご大福合わせて350個くらい作ったかな。もちろん全部手作りです」。

いちご大福は作り置きができない。浸透圧の関係で、時間が経つと餅が固くなってしまうためだ。そのため、イチゴの季節は毎朝一番に、いちご大福づくりに取り掛かる。

こうしてできたいちご大福は、ジューシーで甘酸っぱいイチゴと絶妙に合う甘すぎない清々しい餡、その2つをきめ細かなモチモチのやさしい餅が包み、繊細な食感と瑞々しい味わいが口いっぱいに広がる。一つ食べれば、もう一つ、もう一つとつい手が伸びてしまう。

餡を炊く日は朝4時から、炊かない日でも6時頃から息子の蒼一郎さんと仕事を始める。
出来立ての餅は熱く、さわれば手に引っ付く。餅を扱うには熟練の技が必要だ。
島田社長は、軽量しなくても長年の経験と勘で餅を均等に切ることができる。

苦労して守りつづけた暖簾を、次世代へ。

がんば最中の皮は、熊本市内の業者にお願いして焼いてもらっている。以前は島原市内の菓子屋に依頼していたのだが、高齢になり辞められたそうだ。いま、島田社長は「続けていくことの難しさ」に日々向き合っているという。

「がんば最中の皮は、幸い良い方と巡り会うことができましたが、息子の代になったときにも同じような問題が起きないとは限りません。最中の皮だけでなく、機械、型、粉、小豆、すべてがないと和菓子は作れません。自分で作れないものはどうにか探さないとできないからですね、それが一番大変です。継続は力なりと言うけど『いま』を変わらずにつなげていくのも大切な仕事です」。

一つずつの商品に思い入れがあるからこそ、身にしみて感じる続けることの難しさ。

「店の暖簾という言葉がありますが、自分にしてみれば商品の一つひとつが暖簾なんですよ。その暖簾こそが大事なんです」。

先代が築いた店の暖簾を守り、長年向き合ってきた愛着ある菓子の暖簾を守り、それを息子の代へとつなぐために。縁という細い糸を手繰り寄せながら、島田社長は誇りと覚悟を胸に今日も和菓子と向き合う。

店に出れば、厳しい菓子職人の顔から柔和な店主の顔に。常連客とも会話が弾む。