【会社名】株式会社 壱岐の潮風
【住所】〒811-5545 長崎県壱岐市勝本町本宮南触148
【主な事業内容】農産物の生産、加工、販売
【取材先】下條 朝則(代表取締役)
※取材:2022年
農業をアップデートしたい
壱岐島のはずれにある山際の高台。耳をすませば、鳥のさえずりが聞こえる。眼前には悠々と広がる大海原。燦々と輝く太陽の下、心地よい潮風が吹き抜ける。四方八方を囲む、のどかな大自然。そんな場所に「壱岐の潮風」の農園はある。
下條社長はかつてIT企業で働くエンジニアだった。生まれ故郷である壱岐で自らソフトウェアの会社を興し、東京に進出したこともある。しかし、65歳を迎えたとき、代表を退任。壱岐に戻り、野菜づくりという“畑違い”のビジネスを始めた。きっかけは、ふるさとの農業をアップデートすべきだと思ったからだ。
「作物の育て方や売り方なんかが昔のまんまやったけん。それじゃこの先、農家はどんどん苦しくなるし、後継者もおらんようになる。農業を『儲かるもん』にせにゃならんと思うたと」。

目をつけたのは、トマト栽培。素人でも育てやすく、壱岐の温暖な気候にピッタリの野菜だった。単位面積当たりの収穫量も多いため、うまくいけば利益を生みやすい。品種は「フルティカ」を採択。果実は4~5cmに成長し、重さは約50gになる。プチトマトより少し大ぶりの「ミディトマト」に分類される種だ。
「フルティカは糖度が高くて、豊富な栄養素を含んどる。病気にも強か。なにより『アイメック栽培』と相性がよか品種やった」。

壱岐産の甘いトマト「あま壱岐」
アイメック栽培。それは、どんな場所でも作物が育つと言われる、近年注目の農法である。「アイメックフィルム」と呼ばれる医療用のハイドロゲル膜に種付けして育てるため、極端な話、土さえ必要としない。それは例えば、砂漠やコンクリート、塩害地域など、これまでは農業に適さなかった場所が農地に変わることを意味する。これまで農業の肝とされた「土壌づくり」に手間ひまをかけずに済むのだ。また、アイメック栽培で育つ作物は、アミノ酸や糖度が格段に増すという。

有益な情報はすべてインターネットで探した、というのがITに精通する下條社長らしい。トマト栽培をスタートする前には、同じ方法を取り入れる島根県出雲市の生産者さんを訪ね、自分にもマネできそうかを見て回った。
経験ゼロからのトマト栽培は、広くあまねく有益な情報を取り入れたことで、初年度から大きな苦労もなく、赤々とハリツヤのある、甘くみずみずしいトマトを収穫できたという。
「島のスーパーで商品を売ってもろたら、値段は普通のトマトの2倍すんだけど、売り切れるほど人気が出たと。子どもが一度口にすると、『ママ、また買って!』とおねだりするくらい。美味かもんは高値でも手に取ってくれると、確信したな」。

壱岐生まれの甘いトマトは、ブランド名を「あま壱岐」と命名。今後はより多くの人の手に渡るように販路を拡げたい、と下條社長は語る。
やみつきになるトマトを日本全国へ。壱岐の潮風が、みなさんのもとへ運んでいく。

