【会社名】有限会社 橋口水産
【住所】〒853-2301 長崎県南松浦郡新上五島町若松郷40
【主な事業内容】ブリ・ヒラマサ・マグロの養殖、鮮魚加工、2次加工製品
【取材先】橋口 直正(代表取締役)

※取材:2022年


世界一の養殖場

橋口水産の養殖ブリは、世界中のミシュラン星付き店がこぞってほしがる魚だ。

北米・EU・アジア・中東、卸先は多岐に渡る。海外売り上げの比率は驚きの95%。新上五島町の閑静な港町から、ワールドワイドにビジネスを拡大している。こうした事業の拡がりは、同社の2代目である橋口社長が仕掛けた。2018年、自慢のブリを携えて、世界中のフードショーに打って出たのである。

「国内では安く買い叩かれようけど、海外に行けば同じブリでも高値での取引が成り立つとわかって。和食ブームも相まって、相当なニーズさあるっちゃねと。ぶりの品質には絶対の自信があったけん、勝負はうまくいったとです」。

旨さの秘密。まずひとつは、上五島の地形が関係する。橋口水産が生け簀を構える若松瀬戸は島と島が密集し、入り組んだ地形を持つ。複雑な入り江を通過する潮の流れはかなりの速度だ。海水が滞留しづらいことから、水温は高いときでも29℃までしか上がらず、ブリが夏バテしない。冬場は水温13℃を下回らず、引き締まった身が育つ。橋口社長いわく、この海域はブリの養殖に世界一適した最高の環境。

湾の至るところに配した100台以上の生け簀では、約40万匹のブリを養殖。一見、途方もない飼育数に思えるが、わずか2年ほどで出荷される数だという。販路を次々と開拓しているため、出荷数の勢いは衰えず、年々増加の一途をたどる。

脂がのったブランド魚

旨さの秘密。もう一つは、餌にイワシやサバなどの生魚と自社開発のモイストペレット(半生の餌)を使用することにある。作業を効率化できるドライペレット(乾燥した餌)の3~4倍の人員と労力がかかるが、その分、脂をしっかりと蓄えたブリを育てられる。また、高機能サプリメントも調合することで、ブリの身は栄養価も高く、生臭さもほぼ無く育つ。食べてみるとその違いは歴然。甘みと旨みを存分に感じられる。

「冬の天然ブリをはるかに超える美味しさを持つのが、うちのブリ。しかも脂の乗ったのが旬じゃなか夏場でも食べられるんが最大の売りです。やけん、北半球・南半球、どの時期でも商売が成り立つんよ」。

加えて、ブリは日本近海にしか生息しない魚種である。世界のマーケットには目立ったライバルもなく、ビジネスは今後さらなる成長を見込む。

「俺たちみたいな小さな水産会社は、付加価値をつけてナンボやけん。どんだけ労力がかかろうと、世界で一番の美味しいブリを育ててみせるよ。できれば、日本の人にも本物のブリを味わってほしいっちゃけどね」。

橋口社長はそう話すと、ブリの様子を伺いに海へと出かけていった。