【会社名】株式会社 五島さざなみ農園
【住所】〒853-0044 長崎県五島市堤町2289-1
【主な事業内容】養鶏
【取材先】庄司 鉄平(代表取締役)
※取材:2022年
五島で唯一かつ最後の地鶏
五島で最後の一軒となった、地鶏の養鶏場が廃業するらしい。
そんな噂を耳にした庄司社長は、いてもたってもいられず、最後の生産者である梶山夫妻のもとを訪ねた。とにかく話を伺ってみたい、と。しかし、もともと知った中ではなかったこともあり、最初は怪訝な顔もされた。それでも幾度も足を運ぶ中で、次第に距離は近づいていく。梶山さんの地鶏に対する想いに触れ、また庄司社長も想いを語り、2017年の6月、ついに養鶏場を受け継ぐことになる。
「鶏を育てたことも、ましてや養鶏の経験も、自分にはなかったとです。なんでアツくなったんでしょうね。大切な故郷から、いろんなもんが無くなってくんが寂しかったんかもしれません」。
五島で唯一の地鶏、「しまさざなみ」。海岸線を寄せては返す美しいさざ波のような羽文様を持つことから、その名がつけられた鶏だった。
美味しさを育む、島の恵み
しまさざなみは、オスの軍鶏とメスのプリマスロックの交配から産まれる品種である。しまさざなみのツガイから子が産まれるわけではないため、養鶏場では常時3種類の鶏を育てる。そのため面倒もかかり、譲り受けた当初は育成が思い通りに行かず、苦労もした。
「なんて大変なもんを受け継いだんやろかと、正直、後悔もありました。でも、初めて地鶏を食べさせてもらったときの、『しまさざなみって、こがんに美味しかっじゃんね』と思った感動が忘れられんで。どうにか続けていかんばいかなと、その一心やったです」。
旨みの強さとクセの無い肉質は、地鶏特有の野生臭さを感じず、適度な弾力を持つ食感のため口にしやすい。さらさらとした鶏油は飽きが来ず、美味しさにアクセントを添える。
しまさざなみがこうした特長を持つ理由の一つに、五島ならではの餌が関係している。ポイントは島で採れる、椿油とお茶。これらを独自開発した基礎飼料と混ぜて自家配合する。五島の恵みが、しまさざなみの美味しさを育むのだ。
「オスは124日、メスは150日で出荷を迎えます。それまでは来る日も来る日も鶏たちと真剣に向き合わんといかんです。いまでは鳴き声一つで健康状態がわかるようにもなりました。ちょこっとは生産者らしくなったっですかね」。
スタート時期は500羽だった飼育数も、3年とかけて2000羽に増えた。少しずつだが島内外の料理店からの注文も増えている。農園では今日も賑やかな声が響く。受け継いだ歴史に新たな歴史は、しっかりと紡がれていた。