【会社名】元気やさい雅
【住所】〒857-2427 長崎県西海市大島町2130
【主な事業内容】野菜生産、加工、販売
【取材先】田口昭子(顧問)・谷口雅樹(代表)
ゴミ拾いがやがて畑へ、加工所へ
広大な畑で、太陽をいっぱいに浴びて育つ元気やさい雅の野菜たち。その始まりは約50年前、一人の女性が始めたゴミ拾いだった。
当時の大島町は造船所の誘致が決まり、多くの人がやってきた。島は賑わい、活性化したが、それに伴い目につくようになったのが道端のポイ捨てゴミ。「これはなんとかせんばいかん」と立ち上がったのがその女性、田口さんだった。
転機は大島大橋の開通(平成11/1999年)。橋を渡って来てくれる人たちを美しい景観で迎えたいとの思いから、田口さんはこれまでのゴミ拾いに加え、草刈り、空き地への花の植栽などを始める。そのころには14、15人の仲間ができていた。
この、長年にわたるこのボランティア活動を行政が評価。廃校になった学校を活動の場にしたらどうかと声をかけてくれた。
「廃校になってから何年も経っていて、ここは雑木林になっていました。木が伸びていたのを仲間で開墾して。」
当時を振り返り懐かしそうに笑う。
平成16(2004)年になると長崎県で生ごみ減量化の取り組みが始まる。それを機に、町役場の課長からの勧めでEM(Effective Microorganisms=有用な微生物群)を使った生ごみの肥料化に着手、その肥料を使って野菜を育てはじめた。
畑で採れた野菜は地域の人たちに無償で提供していたが、その姿を見ていた西海市の職員が野菜の加工所を作り、販売してみたらどうかと提案。助成金を活用し、加工所ができた。
ちょうどそのころ、農業高校3年生だった谷口さんは卒業後に就農できる場所を探していた。
「祖父が農業していたのでいつかはと思っていたんですけど、こういう有機農法とかは全然知らなくて。たまたま高校3年生の夏に縁あって田口さんにお会いして話を聞いたら、すごい面白そうやなあって思って。その場で『お願いします!』って感じです(笑)」
何かに導かれるように最高のタイミングで出会った2人。元気やさい雅はこうして始まった。
根本は土づくり。地球を大事にして作った野菜を食べてもらう
農薬や化学肥料を使わない野菜づくりは想像以上に大変だ。野菜についた虫は一匹一匹取り除かなければならないし、広大な畑の除草もすべて手作業。ジリジリと太陽が照りつける夏も、寒風吹きすさぶ冬も作業の手を止めることはできない。
「ちょっと大変ですけど、でもやっぱりいいものば作ったほうが楽しいんで。ここの野菜づくりはとにかく、土づくりがこだわりで。そうすることで農薬や化学肥料を使わない野菜づくりができるので、どうしても手作業が多くてですね。」(谷口)
「やっぱり根本は土づくりです。私たちの活動は自然というか、環境に優しい、地球を大事にして野菜を作って、それを食べてもらおうっていうことが目的ですから。」(田口)
そうやって育てられた野菜は、漬物や梅干し、佃煮となり、地元のスーパーやインターネットで販売されている。どれも田口さんをはじめとするおばあちゃんたちの手作りで、自然由来のほっこり安心する味わい。ごはんとともにいただくと、箸がもう止まらない。
「休日とかには『看板を見た』と赤ちゃんを連れてご家族で立ち寄られる方もいます。『こがんとこ知らなかった』って野菜を買ってすごく喜んで帰ってくださる。」(谷口)
大島港を背に県道15号線(崎戸大橋線)をクルマで走っていると「元気やさい雅」の素朴な看板が現れる。矢印に従い300メートルほど坂道を進むとこの広大な野菜畑にたどり着くのだ。
「化学肥料や農薬を撒いた野菜は本当に美味しくないって、いまはあちこちから買いに来てくれるとです。」(田口)
畑仕事の傍ら、学校への出張授業も行っている。子どもたちにわかるように「菌ちゃんの土づくり」と題し、給食の残滓とEM菌で土づくりをした畑に種をまき、育てる。採れた野菜は料理して食べ、野菜の一生を最初から最後までを体験してもらう。その際、野菜の皮も葉も捨てずに利用することを覚えてもらう。
「周りから『儲かるか?』って言われることもありますが、じゃあ儲かるから化学肥料使うのか?と。やっぱり“残すべきもの”は儲けで測っちゃいけないよなあと思う。それよりも、地元の人に『これ美味しいよね』と食べてもらえるのが一番理想だなあと思っています。」
どうやら、田口さんのDNAは谷口さんにしっかりと受け継がれているようだ。
最後に「毎日楽しいですか?」と聞いてみた。
「ああ、それはもう。」
大きな笑顔で元気な答えが返ってきた。