【会社名】江崎泰平堂
【住所】〒817-0021 長崎県対馬市厳原町今屋敷742
【主な事業内容】和菓子製造・販売
【取材先】江崎 恵介(店主)・友子

※取材:2022年


「飲める」とも言われる逸品

カステラ風味の生地が、こし餡をぎっしりと包む。一本の重さは100g前後と和菓子では他に類を見ない存在感。対馬銘菓「かすまき」だ。

驚くことに巻き寿司ほどの太さのものを、長さ10cm程度にカットした分量が一人前らしい。しかし、ひと口頬張るとさらに驚かされる。見た目ほどの“重たさ”を感じない。ふわふわの皮と上品な甘さの餡がむしろ、あっさりとした食べ応えを生み、ひと口、もうひと口と食したくなる。

「うちのかすまきを『飲める』言うてくれるお客さんもおったですよ。島では昔から愛される郷土銘菓やけん、子どもからお年寄りまで、おやつにペロリと食べてしまうとです」。 かすまきの起源は江戸時代まで遡る。対馬藩主が参勤交代から戻った際、旅の無事を町を挙げてお祝いするための献上品として生まれた。それから庶民にも親しまれるようになり、いまから130年前に江崎泰平堂は、かすまきの商売を始める。

受け継がれる直感

店主の恵介さんと友子さん夫妻は、先代から数えて4代目にあたる。3代目である両親と一緒に家族経営で伝統の味を支えてきた、この道30年の大ベテランだ。

毎朝のかすまきづくりは、恵介さん独りでの作業。小麦粉、砂糖、重曹、卵、ハチミツなどを混ぜ合わせた生地を一枚一枚、丁寧に焼き上げる。ポイントは焼き加減とふんわり感。一枚目は必ず試し焼きをし、その日のその瞬間の生地の具合を感じ取る。

「季節や天候によって皮の仕上がりはぜんぜん違うとですから、様子見ながら原料の配合をちょっと変えてみて。うちにはレシピっちゅうもんが無かとですから、親父から見よう見まねで教わった、直感ば頼りです」。

思い通りに仕上がれば、一気に生地を量産。ジッとにらめっこするように焼き加減を見つめる恵介さんの姿。わずかな瞬間も目を離せない、緊張感のある時間が流れていく。

焼き上がった生地に包む自家製の餡は、豆からじっくりを練り上げるこだわりよう。なめらかな舌触りの餡は、それだけでも口にしたくなる。

「うちの子がちっちゃいころは、毎日あんこをほしがるくらい大好きやったね。生地にも餡にも一切の添加物を加えてないけ、お客さんにも安心して食べてもらえるんよ」。

昔ながらの製法にこだわるため、日持ちは常温で夏場は3日、冬場は5日ほど。作る量はその日に売り切る分だけ。一つひとつに心を込めて作る江崎泰平堂のかすまきは、日常的なお茶菓子として親しまれるのはもちろん、祝い事の縁起物として渡されたり、建前の記念として配られたり、贈り物として欠かせない。 江戸から令和の時代を超えて、対馬のハレとケのそばに。かすまきは幸せを運んでいた。