【会社名】株式会社 アグリ・コーポレーション
【住所】〒853-0601 長崎県五島市三井楽町濱ノ畔1037-4
【主な事業内容】農産物の生産・加工・販売
【取材先】佐藤 義貴(代表取締役社長)

※取材:2022年


ビジネスマンから農業家へ

オーガニックをプラットフォームとした街をつくる。それは国内でもまだ前例のない、農業から拡がる都市計画の話。佐藤社長が描く壮大な夢は、いま現実のものとして動き出す。

遡ること、2011年。大阪の会計事務所を辞め、農業ビジネスに携わりたいと考えた佐藤社長は、日本全国で農地を探すうちに五島に辿り着く。目にしたのは総面積4000坪の土地。しかし、草木が背丈以上に伸び、文字通り荒れ果てた大地がそこにはあったという。

「そばに積まれたトラックタイヤの山に登って、全景を見渡しましたよ。そりゃもう、ひどい有様でした(笑)。でも広大な耕作地を探していたので、一目で気に入りましたね」。

それから3か月後、佐藤社長は過疎が進んだ田舎町、三井楽町で農業を始めた。しかし何を育てるかも決まっておらず、ましてや、自身は土壌すら触ったことがなかった。そこで農業に精通した従業員を雇い、最初はさつまいも、ブロッコリー、じゃがいも、大根、とさまざまな野菜の栽培を開始。人手が足りなくなると従業員を増やして、農地をどんどん拡大した。しかし4年ほどはまったく軌道に乗らず、資金が減るばかり。

「自分は経営で頭がいっぱいで、どうすれば良質な作物を育てられるかに気が回っていませんでした。恥ずかしながら自分で畑に入るようになって初めて、『農業は技術職』なんだと気がつきました」。

それからは毎日、畑で汗水を流した。泥にまみれるうちに、ビジネスマンから農業家へと顔つきも変わった。育てる作物はさつまいもだけに絞り、さらに品種も「安納芋」「紫芋」「芋乙女」の3種に限定。大規模な土地で上質な芋を効率よく栽培する体制を整えた。

有機さつまいもの産地、五島

オーガニック栽培のさつま芋を使用した赤ちゃん向けベビーフードや歯固め用おしゃぶーの製造を始めたのも、ちょうどそのころ。安心安全を大事にしたいと自社で加工までを行った。すると商品は多くのママさんから支持されるようになる。

これだ! 「加工」に広がる大きな可能性を感じた佐藤社長は、焼き芋ペースト・パウダー・ダイスカットなど、多種多様な加工を可能にする一次加工場を建設。栽培から商品化まで、すべてを自社で賄えるようにした。

「言うなれば、当社はさつまいもの『よろず屋』みたいなもんです。生芋も加工品も商品も、どんなものでもオーダーに応えられる。そういうのが、これからの時代に求められる『産地』なんじゃないかな」。

産地をつくれば、そこに雇用が生まれ、人が移り住み、街が生まれる。それが、「オーガニックをプラットフォームとした街づくり」。佐藤社長が話す目に力が宿る。10年前には誰も寄り付かなかった荒れ地に、新たな未来が芽を出した。